描画装置からAIの心臓部へ GPU、20年の変貌

パイプライン数で語られていた頃

2004年4月、NVIDIAはGeForce 6800 Ultraを発表した。PC Watchは、16本のパイプラインを「既存のハイエンド製品の2倍」と紹介している(PC Watch)。GameSpotの比較表でも、競合のRadeon 9800XTは8本だった(GameSpot)。

パイプラインは、画面の点に色を付ける回路の通り道だ。本数が多いほど、同時に多くの点を描ける。スペック表のこの数字が、当時の性能を語る共通の言葉だった。

それから20年あまり。グラフィックボードは今、AIの心臓部として語られている。当時の記事をたどりながら、その変貌を振り返ってみたい。

あの頃も、単純ではなかった

ただ、当時の記事を読み返すと、数字だけで性能が決まる時代でもなかったことが分かる。

1996年に登場した3dfxのVoodoo Graphicsには、専用API「Glide」が用意されていた(3dfx Glide Q&A)。Glideは3dfxのチップでしか使えず、対応ゲームはVoodooで本領を発揮した(The Overclocker)。独自規格で囲い込む構図は、この頃からあったことになる。

2001年には「Quack事件」が起きた。HardOCPが、Radeon 8500のドライバーがQuake 3の実行ファイル名を検出し、テクスチャの品質を下げていたことを突き止めたのだ(Wired)。名前を「Quack」に書き換えると、ベンチマークは約15%遅くなったという(Slashdot)。ATIは、人気ゲーム向けの最適化だと説明している。

2003年5月には、Futuremarkが3DMark03の監査報告を公表した。NVIDIAのドライバーがテストの実行を検出し、描画処理を差し替えていたという内容だ(Beyond3D掲載の報告書)。対策パッチを当てると、NVIDIAのスコアは約24%、ATIも約2%下がった(TechSpot)。ATIも最適化を認めている(The Register)。

この件には後日談がある。Futuremarkはのちに「チート」という言葉を「最適化」に改めた。報告の中身は正しかったが、用語の定義がなかった、というのが同社の説明だ(3DCenterのインタビュー、3DCenter)。

PC向けGPUの主戦場がゲームだった分、性能比較の軸は今より単純だった。それでも、ベンチマークの数字をそのまま信じきれない時代でもあった。

足元のスロットも変わっていった

2004年6月22日、インテルはIntel 925X/915チップセットを国内で発表した(PC Watch)。グラフィックス用のスロットは、AGP 8xからPCI Express x16へ切り替わった。ASCIIの記事によると、AGPは読み書きで毎秒2GBの帯域を共有していた。PCI Express x16は、読みと書きにそれぞれ毎秒4GBを確保した(ASCII.jp)。

ただ、移行はすんなりとは進まなかった。Tom’s Hardwareは、性能面ではまだ乗り換える理由がなく、多くのユーザーがためらっていると書いている。グラフィックボードだけを替えて延命する人が多かったことも、同じ記事は指摘している(Tom’s Hardware)。乗り換えには、マザーボードごとの買い替えが必要だった。

そこで現れたのが、ECSの「915P-A」だ。i915Pを積みながらAGPスロットも備えた変わり種で、アキバでは予価16,600円と伝えられている(AKIBA PC Hotline!)。

AGPの命脈は、その後もしばらく続いた。2008年1月、SapphireはDirectX 10.1に対応したRadeon HD 3850のAGP版を披露した(bit-tech)。HISなどもAGP版を出し、古い環境のユーザーに選択肢を残した(ComputerBase)。

描くための装置が、考えるための装置になった

転換点は2006年11月に訪れる。NVIDIAがGeForce 8800 GTXを発表したのだ(TechPowerUp)。アキバでは11日の時点でGTX搭載カードが7製品並び、実売は8万5,000円前後だった(AKIBA PC Hotline!)。

同じ記事によれば、それまでピクセル用と頂点用に分かれていたシェーダーは、ひとつの統合型アーキテクチャにまとめられた。前世代のGeForce 7900 GTXがピクセルシェーダー24基・頂点シェーダー8基だったのに対し、GeForce 8800 GTXは128基のストリーミングプロセッサを搭載した。パイプラインの本数で性能を語る時代は、ここで区切りを迎える。

3か月後の2007年2月16日、NVIDIAはCUDAの開発キットを公開ベータとしてリリースした(PC Perspective)。GPUの並列計算能力を、C言語から使えるようにする仕組みだ。対応製品として挙げられたのは、まさにGeForce 8800だった(Game Developer)。

そして2012年。画像認識コンテストで圧勝したAlexNetの原論文には、ゲーム用のGTX 580を2枚使い、5〜6日かけて学習したと記されている(Krizhevsky, Sutskever, Hinton, 2012)。後年、コンピュータ歴史博物館がそのソースコードを公開した際には、学習が開発者クリジェフスキーの実家の寝室で行われたことも紹介されている(Computer History Museum、転載:IEEE Spectrum)。

ゲームのために磨かれた装置が、考えるための装置へ。その流れは、2006年からの6年で形になった。

崩れた「改善と上昇」のサイクル

消費電力についても、当時の記事に手がかりがある。2004年のGeForce 6800 Ultraは、補助電源にMolexコネクタを2つ必要とした(PCSTATS)。それでも前世代と同じ製造プロセスのまま、性能は2〜2.5倍になり、消費電力はわずかに下がったとされる(Wikiwand: GeForce 6 series)。性能が倍になっても電力は増えない、そんな世代交代もあったのだ。

2006年のGeForce 8800 GTXは、最大155Wだった(TechPowerUp)。2025年発売のRTX 5090は575Wで、前世代RTX 4090の450Wから125W増えている(GAZLOG)。

背景としてよく挙げられるのが、デナード則の限界だ。微細化に合わせて電圧も下げれば、電力密度を保ったまま性能を上げられる。この法則は2000年代半ばに限界を迎えた。電圧の低下が微細化に追いつかず、リーク電流や発熱の問題も重なって、トランジスタを増やしても消費電力を抑えにくくなったのだ(Wikipedia: Dennard scaling)。

もうひとつ興味深いのが、今のトップエンドの電力の使い方だ。ComputerBaseの検証では、RTX 5090の電力上限を575Wから450Wに引き下げても、4Kでの平均fpsの低下は約5%にとどまった(ComputerBase)。ただしこれは平均値で、ゲームによって低下幅は異なる。同誌の別の検証では、450W時の低下を約8%としている(Notebookcheck)。いずれにせよ、上限を125W下げても性能低下が1割に満たないという結果は興味深い。性能を引き上げる最後の一押しに、相当な電力を必要とする時代になったことがうかがえる。

20年目の11月に

Glideのような独自APIも、ドライバーの最適化をめぐる騒動も、形と規模を変えて今に続いている。CUDAを軸にした今の構図も、その延長線上にあると見ることができる。変わったのは、舞台がゲームからAIへと広がったことだ。

GeForce 8800 GTXの発表から、この11月でちょうど20年になる。パイプラインの本数で語られていた箱は、いつの間にか考えるための装置になっていた。

出典

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